東京地方裁判所 平成元年(ワ)11264号 判決 1993年11月29日
愛媛県今治市大新田町五丁目三番四三号
原告
八潮工業株式会社
右代表者代表取締役
加藤正克
右訴訟代理人弁護士
牛田利治
同
白波瀬文夫
同
内藤早苗
右輔佐人弁理士
池内寛幸
東京都中央区銀座二丁目三番六号
被告
大倉船舶工業株式会社
右代表者代表取締役
村上辰夫
右訴訟代理人弁護士
渡邊敏
右輔佐人弁理士
菊池武胤
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 原告が別紙物件目録記載のハッチカバーの製造、販売を行うことについて、被告が差止請求権を有しないことを確認する。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 被告
主文同旨
第二 請求原因
一 当事者
原告は、船舶の設計及び製造、修理等を目的とする株式会社であり、被告は、鋼製船艙ハッチカバーの設計、製造、販売等を目的とする株式会社である。
二 被告は、次の実用新案権(以下、「本件実用新案権」といい、その実用新案登録請求の範囲(1)にかかる考案を「本件考案」という。)を有している。
1 登録番号 実用新案登録第一六八一七一一号
2 考案の名称 捲取り式ハッチカバー
3 出願日 昭和五七年六月四日(実用新案法八条三項の規定により変更前の特許出願(昭和五七年特許願第九五八〇三号)の時に出願したものとみなされた。)
4 出願番号 昭和五九-一九五五八〇号
5 出願公告日 昭和六一年一〇月二二日(昭和六一-三六四七四号)
6 登録日 昭和六二年五月二八日
三 原告は、別紙物件目録記載のハッチカバー(以下、「原告製品」という。)を過去において製造、販売したものであり、将来においてもこれを行う可能性がある。
四 被告は、原告の原告製品の製造、販売行為が被告の本件実用新案権を侵害する旨主張し、原告に対し、その差止めを求めるなどしている。
五 よって原告は、被告が原告に対し、原告製品の製造販売行為について、差止請求権を有しないことの確認を求める。
第三 請求原因に対する認否
請求原因一ないし四は認め、同五は争う。
第四 抗弁(被告の差止請求権の存在)
一 本件実用新案権の登録請求の範囲
本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は、本判決添付の実用新案公報(以下、「本件公報」という。)写しの実用新案登録請求の範囲(1)の項に記載された以下のとおりのものである。
「夫々のカバーパネルをその捲取り側及び捲出し側に張り出し縁を有し、これら張り出し縁間の中間部を膨出した形状に形成し、各隣接するカバーパネルの捲取り側及び捲出し側の張り出し縁をヒンヂ連結してなることを特徴とする捲取り式ハッチカバー。」
二 本件考案の構成要件
本件考案の構成要件を分説すると以下のとおりである。
(1) 夫々のカバーパネルを、その捲取り側及び捲出し側に張り出し縁を有し、
(2) これら張り出し縁間の中間部を膨出した形状に形成し、
(3) 各隣接するカバーパネルの捲取り側及び捲出し側の張り出し縁をヒンヂ連結してなる、
(4) 捲取り式ハッチカバー
三 本件考案の目的及び効果
1 本件考案の目的
従来のカバーパネル断面がコの字形状をしたハッチカバーは、各カバーパネルを捲き取った状態で、カバーパネルの折曲角部の捲取り軸からの距離が長くなり、それだけ捲取り軸の上甲板からの高さがある程度必要となっていたので、本件考案は、カバーパネルの断面形状に工夫をし、捲取り軸の上甲板からの高さを低くすることを可能とし、それによってハッチコーミングの高さを低くすることを目的としたものである。
2 本件考案は、以下の効果を奏する。
(一) カバーパネルの断面がコの字形状をした従来公知のハッチカバーより捲取り軸の中心と上甲板の距離を短くすることができた結果、ハッチコーミング及びカバーパネルの全体の重心位置を低くすることができ、それだけ船体重心も低下させることができ、安全性の向上に役立ち得る(本件公報4欄二八行から5欄一一行まで)。
(二) ハッチコーミングの高さを低くできたので、ハッチコーミング全体の重量を軽減でき、それだけ船の積載量を増加できる(同5欄一二行から一五行まで)。
(三) ハッチコーミングを低くできたことにより、荷役用クレーンの運動量も少なくすることができ、荷役作業の時間的損失を減少し、荷役効率を上昇させることができる(同5欄一五行から一八行まで)。
(四) カバーパネルの捲出し状態で、各カバーパネルの端部同士が重なるところがなく、捲き出した状態で各部の点検を容易とし、塗装等の保守も捲出し状態で容易に行い得る(同5欄二〇行から6欄四行まで)。
四 原告製品の構成
原告製品について本件考案の構成要件に対応する構成をまとめると以下のようになる。
1 それぞれのカバーパネル11、11はその捲取り側及び捲出し側に張り出し縁12、12'を有し、
2 これら張り出し縁12、12'間に断面矩形形状の中間部18を形成し、
3 各隣接するカバーパネル11、11の捲取り側及び捲出し側の張り出し縁12、12'を捲取り側ヒンヂアーム23'及び、捲出し側ヒンヂアーム23により、ヒンヂ連結した
4 捲取り式ハッチカバー
五 本件考案と原告製品の構成の対比
1 原告製品の構成1は本件考案の構成要件(1)を充足する。
2 本件考案の構成要件(2)の中間部の形状は、要するに膨出した形状であればよく、断面矩形形状も含まれるから、原告製品の構成2は本件考案の構成要件(2)を充足する。
3 原告製品の構成3は本件考案の構成要件(3)を充足する。
4 原告製品の構成4は本件考案の構成要件(4)を充足する。
5 なお、原告は、右1、2を否認しているが、本件考案は、カバーパネルの中央部から舷側部に至るカバーパネルの形状が構成要件となっているものであり、原告が主張する舷側部の付加的構成即ち垂直側板21とガイドプレート50は、構成要件になっていない。即ち本件明細書には原告が主張する該付加的構成と類似した記載があるが、本件考案の構成から除外されており、本件考案の要旨はカバーパネルの中央部から舷側部に至るカバーパネルの構成であるから、原告の主張は成り立たない。
六 本件考案の効果と原告製品の効果の対比
1 本件考案の構成による一次的な効果は、(1)「カバーパネルの捲取り軸を中心とする径を短くすることができる」効果、(2)「捲出し水平位置におけるカバーパネルの重心位置を低くできた」効果、(3)「カバーパネルの捲出し状態で各カバーパネルの部分において重なるところがなく、捲出した状態で各部の点検を容易とし、塗装等の保守も捲出し状態で容易に行い得る」効果であり、「捲取り軸の上甲板からの高さを低くすることができた」効果は、右の効果(1)の二次的な効果にすぎないところ、これまで述べたように、原告製品は本件考案の構成(一)ないし(四)を備えていて、右一次的効果が存在するのは明白であるから、二次的な効果の有無を問題にするまでもない。
2 原告は、原告製品では、カバーパネルの舷側部に連設された垂直側板及びガイドプレートの存在により、捲上げ時には、別紙物件目録第8図のとおり、垂直側板のガイドプレートが突出するので、本件考案の効果の一つである捲上げ時に捲取り軸を中心とするカバーパネルの径を短くするという効果を奏しないと主張するが、船のデッキは、上甲板に波が被った場合海水が舷側に自然に落下して海に戻るように設計されるので、上甲板の中心のレベルの方が舷側のレベルより高くなっているから、垂直側板の少々の突出は問題にならず、原告製品でもカバーパネルの断面がコの字形状をした従来公知のハッチカバーより、捲取り軸の中心と上甲板の距離を短くすることができる。
3 これを実例に即して述べれば、原告製品のハッチカバーの捲取り時の状態を示す別紙説明図において、通常、イ、ロ、ハが、ポイントAを通過することはないが、非常時、例えばカバーパネルを船体の架台に取り付ける場合、またストッパーがきかなかった場合、イ、ロ、ハが、ポイントAを通過し、甲板を破壊することがないように配慮すべきものであるところ、イ、ロ、ハを考慮すると、原告製品により従来例でカバーパネルを製作する場合には、ドラムセンターを二〇〇mm以上上昇させなければならず、したがって本件考案の構成要件を備えた原告製品は、二〇〇mm以上捲取り軸の中心を低くすることができているから、原告製品には「捲取り軸の上甲板からの高さを低くすることができる」効果がある。
なお、カバーパネルとデッキとの間の間隔(アローアンス)については、統一的な規格はなく、被告は通常一五〇mm以上を取っている。
4 原告は、本件考案のカバーパネルの形状が折曲角部を除去した形状により、嵩低く巻き上げられる点について、理論上はともかく、実際上はそれほど多くの効果がない旨主張している。しかし原告のカタログ(乙第五号証)では、原告製品は突出したガイドプレート50が存在するにもかかわらず、在来カバーとの比較において、「カバー形状を凹凸形(波形)にしたため、カバー容積は四〇%減少し、重量も一〇%から一五%軽くなりました。その分積荷容積が多く取れます。」と記載しており、前記三2(二)の本件考案の効果を積極的に認めている。カバー形状を凹凸形にして、カバー容積が四〇%減少すれば、イ号のハッチカバーが本件考案の構成(1)ないし(3)の構造を取っている以上、本件考案の構成による一次的な効果として、従来例に比較して捲き取られたカバーパネルの捲取り軸を中心とする径を短くすることができる。また右パンフレットには、「格納スペースは、最小限に押さえてあります」とも記載されており、このことは、「従来例に比較して捲き取られたカバーパネルの捲取り軸を中心とする径を短くすることができる」効果を原告が自認しているものである。
更に、カバー容積の四〇%減少、あるいは重量も一〇%ないし一五%軽くなっているということは、「捲出し水平位置におけるカバーパネルの重心位置を低くできた」こと、「船体重心も低下させることができ安全性が向上した」ことと表裏一体である。
5 更に乙第七号証に示すように、原告製品に従来のハッチカバーパネルを適用すると、パネルの形状自体を大きくせねばならず、原告製品に従来のカバーパネルを適用したものは、捲取り軸の軸心が二〇六mm高くなるから、本件実用新案の構成の二次的効果である「捲取り軸の上甲板からの高さを低くすることができた」効果は、原告製品においても現れていることが実証できる。
七 よって、原告製品は、本件考案の技術的範囲に属するものであり、原告製品の製造、販売は、本件実用新案権を侵害するものであるから、被告はその差止請求権を有する。
第五 抗弁に対する認否
一 抗弁一は認める。
二 抗弁二は認める。
三 抗弁三の1について、本件公報に概ね被告主張のとおりの記載があることは認める。同2は知らない。
四 抗弁四は、1、2を否認し、3、4は認める。
被告主張の1、2の構成は、カバーパネルの中央部から舷側部に至るまでの内側の断面形状を述べるものに過ぎず、原告製品の舷側両端部におけるカバーパネルの断面形状は、別紙物件目録第7図、第8図のとおりであり、右形状によれば、原告製品は、カバーパネルの舷側の各端部において、本件考案の構成要件であるカバーパネルの中間部を膨出形状としカバーパネルの捲出し側と捲取り側に張り出し縁を設けるとの構成を欠いている。
五 抗弁五及び六は否認する。
1 本件考案は、カバーパネルの中間部を断面台形形状に形成し、両側に張り出し縁を設けるとの構成を採用しているものであるが、右構成により、公知のハッチカバーの捲取り軸から最も距離の長い位置に当たる断面コ字形状の折曲角部を除去し、これにより巻き取られたカバーパネルの捲取り軸を中心とする径を短くすることができ、その結果捲取り軸の上甲板からの高さを低くするとの効果を得るものである。
したがって本件考案におけるカバーパネルの断面形状は、すべての部分における断面形状が中間部を台形形状とし両側に張り出し縁を有するものであることを前提としているのであり、そうでないと、捲上げ時において断面コ字形状の折曲角部の除去により捲取り軸を中心とするカバーパネルの径を短くするとの作用効果を奏せしめることができない。
2 しかるに原告製品は、右四のとおり、舷側の両端部における断面形状はカバーパネルの両側に張り出し縁がある形状ではなく、膨出した中間部の両側にはカバーパネルの一部又は延長部材である垂直側板21のガイドプレート50が存在する形状であり、捲上げ時には別紙物件目録第4図、第8図のとおり垂直側板21のガイドプレート50が両中間部の中央部に突出する形状となり、本件考案におけるごとく「捲上げ時において断面コ字形状の折曲角部の除去により捲取り軸を中心とするカバーパネルの径を短くする」との作用効果を奏せしめることはできないから、原告製品は本件考案の構成要件(2)を欠くものである。
また、仮に原告製品が本件考案の構成要件(2)を充足するとしても、原告製品のガイドプレート50の存在が構成要素の機能を阻害する要素となって本件考案の作用効果を達成することができず、かつ実際の使用に際しても右の阻害要素の除去が予定されていないものであるから、原告製品は本件考案の技術的範囲に属しない。
3 被告は、船の甲板の中央部は舷側より常に高くなっているから、原告製品でも本件考案の作用効果を奏することができる旨主張するが、すべての船舶において、ハッチコーミングが据え付けられる場所が右の構造になっているものではないし、また突出部を嵌入するに足りる程に舷側が低くなっているとは言えない。例えば、甲第一四号証に示すとおり、キャンバなしの船舶は多数存在するから、原告製品は「ガイドプレートを舷側の低い部分に臨ましめる」ことは予定していない。つまり使用に際して、構成要件の阻害要素が除去されることが予定されているものではない。
4 そもそも本件考案は、カバーパネルの形状を折曲角部を除去する形状とすることにより嵩低く巻き上げられることを目的とするものであるが、理論上右の効果を達成することができるにしても、実用上それほど多くの効果をあげられるものではない。このことは本件公報第2図(従来技術)と第4図(本件考案の実施例)を対比した場合、さほどの高低差が見られないことからも一見して明らかである。したがって市場においても、本件考案の実施品が商業的成功をおさめているものではなく、「嵩低く巻き上げられる」というようなことは当業者間で全く問題とされていない。
原告製品は、何ら本件考案の効果を期待しているものではなく、たまたま原告が特定した構造になっているにすぎない。このような事情にあるから、原告は「突出部を舷側の低い部分に臨ましめる」というがごとき手のこんだことを行ったことはなく、かようなことは被告から言われるまで考えてもみなかったことである。
5 また別紙説明図により原告製品に即して説明すると、捲出し時のハッチカバーの回転方向は図中矢印(→)で示すとおりであるから、ポイントAとの距離を見るべきは、別紙説明図のイ、ロ、ハの各点である。
A、イ間は一一〇mmであり、アローアンスは、通常一〇〇mm程度あれば足りるから、ガイドプレートは舷側の低い部分に臨ましめられておらず、A、ハ間は一五〇mmあるので、従来技術のハを用いたとしても、被告のいうアローアンスは十分にあり、アローアンスを確保するため捲取り軸を高くする必要はない。即ち、原告製品は、構造ないし組成から見て、実用上本件考案の作用効果を奏していないものである。
なお、被告は、イ’、ロ’、ハ’の各点を問題とするが、右は捲出し時の回転方向に照らすと問題にする必要がないものである。
6 右5のとおり、原告は原告製品において、ガイドプレート50を舷側の低い部分に臨ましめていないが、これは、原告は「嵩低く巻き上げる」、「ハッチコーミングの中心軸の位置を低くする」ということの必要性を感じておらず、そのようなことは従来から意図していなかったものである。またガイドプレート50の先端部を舷側の低い部分に臨ましめるとすれば、甲板の中心部と舷側の低い部分に十分な高低差があるかどうか、ガイドプレート50を舷側の低い部分に臨ましめると他の面で障害を生じないかどうかなどの未調査、未解決の技術上の問題があり、被告が主張するようにガイドプレート50を舷側の低い部分に臨ませるというようなことは、現実的可能性が乏しいものであるから、右の阻害要素の除去の現実的可能性も存在しない。
7 被告は、原告のカタログ及び雑誌を援用し、同カタログに「凹凸形(波形)にしたため、カバー容積は四〇%減少し、重量も一〇%から一五%軽くなりました。その分積荷容積が多く取れます。」と記載されていることから、原告製品が本件考案の効果を得ていると主張するが、右は「カバー形状を凹凸形にしたため、カバー容積、重量が減少した…」と述べられているに過ぎず、「嵩低く巻き上げられる」とは述べられていないものであり、原告製品はガイドプレート50の存在によりハッチコーミングの高さを低くできていないから、これを低くすることによって得られる被告主張の効果を得ていない。またカバー容積の減少、軽量化は、本件考案の構成によらなくても従来技術の下でも達成し得るものであり、カバー容積の減少、軽量化は、本件考案の構成によってのみ得られる特有の効果ではなく、本件考案とは無関係である。
六 抗弁七は争う。
第六 証拠関係は、本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
一 請求原因一ないし四の事実、抗弁一(本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲)及び抗弁二(本件考案の構成要件)は当事者間に争いがない。
二 本件考案の目的及び効果について
成立に争いのない甲第五号証の一及び二によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、
1 従来の技術の問題点として、「公知の捲取り式ハッチカバーは、各カバーパネル1、1…が断面コ字形状をしていた為、これらカバーパネルを捲取った状態で、カバーパネル1の折曲角部1'の捲取り軸6からの距離が長くなり、それだけ捲取り軸6の上甲板7からの高さHがある程度必要となっていた。そしてこの捲取り軸6の高さHに応じてハッチコーミング4の高さH'も高くしなければならなかった。その結果カバーパネルの捲取り時において、大きい収納スペースが必要であった。更に公知のカバーパネルの形状が上記した通り断面コ字形状をしていた為、カバーパネルの閉状態における重心位置も高くなっていた。」(本件公報2欄一三行から3欄一行まで)との記載、
2 本件考案の目的について、「本考案は、カバーパネルの断面形状に工夫をし、捲取り軸の上甲板からの高さを低くすることを可能とし、それによってハッチコーミングの高さも低くすることを目的としてなしたものである。」(同3欄二行から六行まで)との記載、
3 本件考案の効果について、
(一) 「本考案ハッチカバーが捲取り軸16に、捲取られた状態では……、捲取り軸16からの距離を短くすることができた。即ち……捲取られたカバーパネルの捲取り軸16を中心とする径を短くすることができた。従って捲取り軸16の上甲板17からの高さhを低くすることができた。」(同4欄二八行から四三行まで)
(二) 「その結果ハッチコーミング14の高さh'の高さも低くすることができただけではなく、カバーパネルの捲取り状態における格納スペースを小さくすることができた。」(同4欄四三行から5欄三行まで)
(三) 「而かもカバーパネルの形状を上記した通り中間部18の両縁に張り出し縁12、12'を形成したものとした結果、捲出し水平位置におけるカバーパネルの重心位置を公知のカバーパネルより低い位置とすることができた。」(同5欄三行から七行まで)
(四) 「従ってハッチコーミング及びカバーパネルの全体の重心位置を低くすることができ、それだけ船体重心も低下させることが出来、安全性の向上に役立ち得た」(同5欄七行から一〇行まで)
(五) 「而も上記の通りハッチコーミングの高さを低くすることにより、その重量を軽減でき、それだけ船の積載量を増加することができる実用上の利点も有する。」(同5欄一二行から一五行まで)
(六) 「又コーミングを低くできたことにより、荷役用クレーンの運動量も少なくすることができ、時間的損失を減少し、荷役効率を上昇させることもできる効果も有する。」(同5欄一五行から一八行まで)
(七) 「加えて、本考案ハッチカバーのカバーパネルの形状によれば、カバーパネルの捲出し状態で、カバーパネルの部分において重なるところがなく、捲出した状態で各部の点検を容易とし、塗装等の保守も捲き出し状態で容易に 行い得る」(同5欄一九行から6欄三行まで)
との記載、
があることが認められる。右事実によれば、本件考案は、右1の従来の技術の問題点を前提に、右2のとおりの目的をもって、実用新案登録請求の範囲の構成を採用することにより、右3の(一)ないし(七)の効果を奏するものであると認められる。
三 原告製品の構成について
1 当事者間に争いのない別紙物件目録によれば、原告製品のハッチカバーを構成するそれぞれのカバーパネル11は、舷側の両端部以外の部分において、その捲出し側に張り出し縁12'を、捲取り側に張り出し縁12をそれぞれ有し、舷側の両端部において、傾斜した左右側壁板19を有し、その下端から水平板20を張り出させ、この水平板に垂直側板21を固着してあり、垂直側板21の捲出し側端部に釣状のガイドプレート50が突設されていて、この部分の捲取り側-捲出し側方向の断面は先端部が釣状のガイドプレートである略矩形形状となり、張り出し縁はみられないことが認められる。
2 別紙物件目録によれば、原告製品のハッチカバーを構成するそれぞれのカバーパネル11の前記張り出し縁12、12'間の中間部18を膨出した形状にしてあり、この膨出した形状を断面矩形状にしてあることが認められる。
3 原告製品が、抗弁四3の構成、即ち、「各隣接するカバーパネル11、11の捲取り側及び捲出し側の張り出し縁12、12'を捲取り側ヒンヂアーム23'、捲出し側ヒンヂアーム23により、ヒンヂ連結した」構成を有することは、当事者間に争いがない。
4 原告製品が、抗弁四4の構成、即ち、「捲取り式ハッチカバー」を有することは当事者間に争いがない。
四 本件考案と原告製品の構成の対比について
1 原告製品が本件考案の構成要件(3)、(4)を充足することは、当事者間に争いがない。
2 右三1認定の事実によれば、原告製品のハッチカバーを構成するそれぞれのカバーパネル11は、舷側の両端部以外の部分において、その捲出し側に張り出し縁12'を、捲取り側に張り出し縁12をそれぞれ有するものであるから、原告製品は、「それぞれのカバーパネルが、その捲取り側及び捲出し側に張り出し縁を有し」との本件考案の構成要件(1)を充足するものと認められる。
原告は、原告製品にはカバーパネルの舷側の各端部において、本件考案の構成要件であるカバーパネルの中間部を膨出形状としてカバーパネルの捲出し側と捲取り側に張り出し縁を設けるという構成を欠いていると主張する。
しかし、成立に争いのない甲第二号証及び前記甲第五号証の一、二によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、図面に示された実施例について、「本考案ハッチカバーの各パネル11、11は公知のパネル同様、傾斜した左右側壁板19、19を有し、その下端位置から水平板20を張り出させ、この水平板20に主ヒンヂ21を固設してある」(本件公報3欄三八行から四二行まで)及び「カバーパネルの主ヒンヂ21」(同4欄一九行から二〇行まで)との記載があり、本件実用新案登録願に添付された図面中第4図ないし第8図には、右実施例の水平板20、主ヒンヂ21は、カバーパネルの本体と一体となって捲き取られあるいは捲き出される状況、水平板20、主ヒンヂ21の捲取り側-捲出し側方向の断面形状はいずれも同じ厚さの板状で、中間膨出部もこれに対する張り出し縁もないことが図示されていることが認められる。
したがって、本件考案においては、各カバーパネルの舷側両端部の水平板、主ヒンヂもカバーパネルの一部とされているところ、水平板、主ヒンヂ部分には中間膨出部も張り出し縁もないものが本件考案の実施例として本件明細書に開示されているのであるから、本件考案の構成要件(1)及び(2)の構成を備えることを要するのはそれぞれのカバーパネルの舷側の両端部を除いたカバーパネルの本体部分であり、それぞれのカバーパネルが、舷側方向の全幅員について構成要件(1)及び(2)の構成を備えることを要件とするものではなく、舷側の端部においては中間部を膨出形状に捲出し側と捲取り側に張り出し縁を設けることを要しないものと認められ、原告製品が本件考案の構成要件(1)を充足しないとの右主張は採用できない。
3 右三1、2認定の事実によれば、原告製品のハッチカバーを構成するそれぞれのカバーパネル11は、舷側の両端部以外の部分において、張り出し縁12、12'間の中間部18を断面矩形状の膨出した形状に形成してあるものであるから、原告製品は「これら張り出し縁間の中間部を膨出した形状に形成し」との本件考案の構成要件(2)を充足するものと認められる。
本件考案がそれぞれのカバーパネルの舷側方向の全幅員について構成要件(2)の構成を備えることを要件とするものでないことは、右2に判断したとおりである。
また、本件明細書中の「図面に示した実施例では、この膨出した中間部18の形状を断面台形形状としてあるが、この形状は、必ずしも断面台形形状に限られることなく……断面矩形形状であってもよく」(本件公報3欄二一行から二五行まで)との記載によれば、原告製品の断面矩形状の膨出した形状の中間部が、本件考案の構成要件(2)にいう膨出した形状に形成された中間部に該当することは明らかである。
五 本件考案と原告製品の効果の対比について
1 別紙物件目録、成立に争いのない甲第一号証の一、二、甲第七号証、乙第七号証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告製品の各カバーパネルは、別紙物件目録第3図に示すように傾斜した左右側壁板19を有し、その下端から水平板20を張り出させ、この水平板20に垂直側板21が固着され、別紙物件目録第5図(1)、(2)、第7図に示されるとおり、垂直側板21の捲出し側端部に鉤状のガイドプレート50が突設されている。隣接するカバーパネルは、長手方向の中間部における適宜の位置においてヒンヂ連結されているが、捲取り側ヒンヂアームと捲出し側ヒンヂアームには相互の先端部を係合せしめる部材や構成が設けられておらず、これにより両者は制限なく回動しうるように連結されているが、前記ガイドプレート50の先端部が、隣接する垂直側板21のブロックに係合し、これによって捲出し状態においてカバーパネル11が逆折れしないよう水平に保たれる。
(二) 原告製品においては、公知のハッチカバーの、捲取り状態において捲き取り軸から最も距離の長い位置に位置する折曲角部に相当する部分が中間膨出部18と張り出し縁12、12'を設けた構成により除去されてはいるものの、カバーパネルの捲取り時には別紙物件目録第4図、第8図のとおり垂直側板21の捲出し側端部に突設されたガイドプレート50の先端部が垂直側板の延長方向に突出する。
(三) 原告製品を捲き取った状態を側面視したものが、別紙説明図であり、Pは捲取り軸の中心(ドラムセンター)、AはPから垂直に下ろした線とアッパーデッキ アト シップセンターラインとの交点でPAは約二〇〇〇mm、CはPAの延長上に下ろした架台の中心における上甲板の高さの位置であり、ACは約一〇〇mmで、これがこの位置での上甲板中心線から架台の位置までのキャンバである。(イ)はカバーパネルNo.15の垂直側板の捲出し側に突出したガイドプレートの先端でPからの距離は約一八九〇mm、(ロ)はカバーパネルNo.16の膨出部の捲取り側の角の先端でPからの距離は約一七三五mm、(ハ)はカバーパネルNo.16の膨出部の捲取り側の角が従来技術の折曲角部まで伸びていたと想定した場合の折曲角部の先端の想定位置でPからの距離は約一八五〇mmである。イ、ロ、ハは、カバーパネルが捲き出される際に、(イ)、(ロ)、(ハ)が反時計回りに回転して、PA線を通過する位置であり、Aイは約一一〇mm、Aハは約一五〇mm、Aロは約二六五mm、Cイは約二一〇mmである。
なお、カバーパネルNo.15の膨出部の捲出し側角が従来技術の折曲角部まで伸びていると想定した場合の折曲角部の先端の想定位置を(ホ)とするとP(ホ)の距離はP(イ)の距離とほぼ同じとなる。
2 右認定の事実によれば、原告製品を捲き取る過程で、甲板に最も近くなるものと思われるカバーパネルNo.16の膨出部の角の先端(ロ)のPからの距離は約一七三五mm、これに対し、前記カバーパネルNo.16の膨出部が従前技術の折曲角部まで伸びていたと想定した場合の折曲角部の想定上の先端(ハ)のPからの距離は約一八五〇mmであるから、原告製品も本件考案と同様に、捲上げ時に捲取り軸を中心とするカバーパネルの径を短くする効果を奏するものと認められる。前記カバーパネルNo.15の膨出部が従前技術の折曲角部まで伸びていたと想定した場合の折曲角部の想定上の先端(ホ)のPからの距離がP(イ)の距離とほぼ同じく約一八九〇mmとすると、原告製品の右効果は一層顕著である。
また、原告製品のカバーパネルNo.15の垂直側板の捲出し側に突出したガイドプレートの先端(イ)のPからの距離は約一八九〇mmであるが、右先端(イ)は、カバーパネルが捲き出される際に回転して別紙説明図のPA線を通過する際には、カバーパネルの舷側の側端部として架台の直近を通過するのであるから、上甲板からの高さはほぼ架台の位置の上甲板からの高さ、即ちCイの約二一〇mmである。これに対し、前記想定上の先端(ハ)が回転してPA線を通過する際には、カバーパネルの舷側端部以外のほぼ全幅が通過するのであるから、上甲板からの高さは上甲板中心線での上甲板からの高さ、即ち、Aハの約一五〇mmである。したがって、原告製品のカバーパネルの捲き取り中の上甲板からの距離のアローアンスが右二一〇mmであったとすれば、折曲角部の先端(ハ)を有する従前技術のものは捲取り軸の上甲板からの高さを約六〇mm高くする必要があり、アローアンスが二一〇mmより小さくても一五〇mmより大きければ、一五〇mmを上回る分だけ右先端(ハ)を有する従前技術のものは捲取り軸の上甲板からの高さを高くする必要がある。また右アローアンスが一五〇mm以下であれば先端(ハ)を有する従前技術のものもアローアンスに適合していることになるが、その場合も現実には他の何らかの理由で上甲板からの距離を必要なアローアンス以上に高くしてあるものの、ハッチカバーの構造としては、現状からアローアンスの限界まで捲取り軸の高さを低くしようとすれば、原告製品の方が、先端(ハ)を有する従前技術のものより、低くすることができることは明らかである。
以上の事実によれば、原告製品は、本件考案と同様に捲取り軸の上甲板からの高さを低くすることができるという効果を奏するものと認められる。
前記カバーパネルNo.15の膨出部が従前技術の折曲角部まで伸びていたと想定した場合の折曲角部の想定上の先端(ホ)のPからの距離がP(イ)の距離とほぼ同じく約一八九〇mmとすると、右(ホ)が回転してPA線を通過する際の上甲板からの高さは、上甲板中心線での上甲板からの高さ、即ち、Aイにほぼ同じく約一一〇mmとなるから、原告製品の右の効果は一層顕著である。
右のとおり、原告製品は、本件考案の構成要件を具備し、前記二3(一)認定の効果を奏するものであるから、同(二)認定の効果と同様の、ハッチコーミングの高さを低くすることができ、カバーパネルの捲取り状態における格納スペースを小さくすることができるという効果を奏するものと認められる。
また、原告製品のカバーパネルの形状は、前記三1、2に認定したとおり、中間部の両縁に張り出し縁を形成したものであるから、原告製品も本件考案と同様に前記二3(三)認定の効果と同じ捲出し水平位置におけるカバーパネルの重心位置を公知のカバーパネルより低い位置とすることができる効果及び二3(七)認定の効果と同じ、カバーパネルを捲出した状態で各部の点検を容易とし、塗装等の保守も捲出し状態で容易に行える効果を奏するものと認められる。
更に、以上の原告製品の効果によれば、原告製品も本件考案と同様に二3(四)ないし(六)認定の効果と同じ、ハッチコーミング及びカバーパネル全体の重心位置を低くし、それだけ船体重心も低下させることができ、安全性の向上に役立つ、ハッチコーミングの重量を軽減でき、船の積載量を増加することができ、荷役用クレーンの運動量を少なくし、時間的損失を減少し、荷役効率を上昇させることができるという効果を奏するものと認められる。
以上のとおり、原告製品は本件考案と同様の効果を奏するものである。
3 原告は、原告製品ではガイドプレート50の存在が構成要素の機能を阻害する要素となって本件考案の作用効果を達成することができない旨主張する。しかし、原告製品が本件考案と同様の効果を奏することは、前記認定のとおりであるが、更に説明すれば、次のとおりである。
原告は、全ての船舶において、甲板の中央部が舷側より高くなっている構造ではなく、また、舷側が低くなっているとしても、ガイドプレートの突出部を嵌入するに足りる程に舷側が低くなっているとは言えない旨主張する。
しかし、成立に争いのない乙第三号証によれば、一般に船の甲板上面は水はけを良くするために船体中心を高くした凸面とするが、そのための甲板梁の曲り量をキャンバと称し、キャンバの寸法は五〇分の一を標準とすることが認められ、また、原告製品もキャンバのある甲板に設置された状況が示されており、上甲板中心線と架台の中心線の位置との間のキャンバは約一〇〇mmであることは右1に認定したとおりである。
前記のとおりP(ハ)の距離は約一八五〇mmであるのに対し、P(イ)の距離は約一八九〇mmであり、約四〇mmP(イ)の距離の方が長いが、ガイドプレートの位置におけるキャンバが四〇mmを越える船、即ち、標準的なキャンバが五〇分の一であることからすれば、上甲板中心線から二mを越える幅のカバーパネル、つまり全体の幅員が四mを越えるカバーパネルを使用する船であれば、キャンバがP(ハ)とP(イ)の距離の差を吸収して、僅かながらも効果を奏するものと認められるところ、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第一二号証及び甲第一三号証の各一ないし三、撮影者、撮影対象、撮影年月日に争いのない検甲第一号証ないし検甲第一〇号証によれば、原告製品はカバーパネルの幅員が概ね九mを越えるものと認められ、原告製品が設置されることが予想される規模の船ではキャンバの割合が標準より多少小さくても優に効果を奏するものと認められる(なお、甲第一二号証及び甲第一三号証の各一ないし三は原告製品の図面とは認められないが、原告製品にかかるアローアンスに関する証拠として提出されている以上、原告製品と同程度の規模のものと認められる。)。
また、弁論の全趣旨によって成立の認められる甲第一四号証の一ないし三によれば、ハッチカバーを設ける必要のある船でキャンバのない船もあることが認められ、キャンバのない船では、原告製品は、ガイドプレートの突出部があるために、捲取り軸の上甲板からの高さを低くするという効果を奏することができないことは原告主張のとおりであるが、船の甲板にキャンバをつけることが一般的であり、キャンバのある船では原告製品が本件考案と同様の効果を奏する以上、原告製品の有する効果を発揮できないキャンバのない船に使用されることがあることを理由に、原告製品が本件考案と同様の効果を奏しないということはできない。
原告は、本件考案は、理論上はカバーパネルを嵩低く巻き上げられるという効果を達成することができるとしても実用上それほど多くの効果をあげられるものではない旨主張するが、本件考案はその実用新案登録請求の範囲に記載された構成を採用することにより、前記認定のとおり考案の詳細な説明に記載の効果を奏することができるものとして登録されたものであり、原告製品も同じ構成を備えることにより、同程度の効果を奏することができるものである。
原告は、原告製品は何ら本件考案の効果を期待しているものではない、原告は「嵩低く巻き上げる」、「ハッチコーミングの中心軸の位置を低くする」ということの必要性を感じておらず、そのようなことは従来から意図していなかった旨主張する。
しかし、客観的に原告製品が本件考案の構成要件を具備し、本件考案と同様の効果を奏する以上、原告の主観的意図の如何を問わず、原告製品は本件実用新案権を侵害するものであり、原告の右主張は失当である。
六 右四及び五に認定判断したところによれば、原告製品は、本件考案の構成要件を全て具備し、本件考案と同様の効果を奏するものであるから、本件考案の技術的範囲に属する。したがって、原告製品の製造販売は本件実用新案権を侵害するものであるから、被告は右侵害行為の差止請求権を有するものである。
七 よって、原告の本訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 宍戸充 裁判官 櫻林正己)
<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告
<12>実用新案公報(Y2) 昭61-36474
<51>Int.Cl.4B 63 B 19/21 識別記号 庁内整理番号 7374-3D <24><44>公告 昭和61年(1986)10月22日
<54>考案の名称 捲取り式ハツチカバー
<21>実願 昭59-195580 <65>公開 昭60-136286
<22>出願 昭57(1982)6月4日 <43>昭60(1985)9月10日
前特許出願日援用
<72>考案者 伊澤明 東京都中央区銀座1丁目14番5号 第2五味ビル 大倉船舶工業株式会社内
<72>考案者 鹿野輝 東京都中央区銀座1丁目14番5号 第2五味ビル 大倉船舶工業株式会社内
<71>出願人 大倉船舶工業株式会社 東京都中央区銀座2丁目3番6号
<74>代理人 弁理士 菊池武胤
審査官 前田正夫
<56>参考文献 特公 昭36-8226(JP、B1)
<57>実用新案登録請求の範囲
(1) 夫々のカバーパネルをその捲取り側及び捲出し側に張り出し縁を有し、これら張り出し緑間の中間部を膨出した形状に形成し、各隣接するカバーパネルの捲取り側及び捲出し側の張り出し縁をヒンヂ連結してなることを特徴とする捲取り式ハツチカバー。
(2) 上記中間部の形状を断面略台形形状に形成した実用新案登録請求の範囲(1)に記載の捲取り式ハツチカバー。
(3) 上記中間部の形状を断面略半円形形状に形成した実用新案登録請求の範囲(1)に記載の捲取り式ハツチカバー。
(4) 上記中間部の形状を断面略矩形形状に形成した実用新案登録請求の範囲(1)に記載の捲取り式ハツチカバー。
考案の詳細な説明
(産業上の利用分野)
この考案は、捲取り軸及びハツチコーミングの高さを低くした新規な捲取り式ハツチカバーに関する。
(従来の技術)
多数のカバーパネルをヒンヂ連結し、これを捲取り軸に捲取ることによつて格納するようにしたハツチカバーは公知である。この公知のハツチカバーは、第1図及び第2図に示す通り、断面コ字形状をし且つ捲出し側に張り出し縁2を有する多数のカバーパネル1、1……をヒンヂ3、3……によつて連結し、この一端をハツチコーミング4の一端に臨ませて固設した架台5上の捲取り軸6に連結したものである。そして多数連結したカバーパネル1、1……を上記捲取り軸6に捲取ることによつてハツチを開放し、捲取り軸からコーミング4上にカバーパネル1、1……を捲出すことによつてハツチを閉じるようにしたものである。
(考案が解決しようとする問題点)
上記した公知の捲取り式ハツチカバーは、各カバーパネル1、1……が断面コ字形状をしていた為、これらカバーパネルを捲取つた状態で、カバーパネル1の折曲角部1’の捲取り軸6からの距離が長くなり、それだけ捲取り軸6の上甲板7からの高さHがある程度必要となつていた。そしてこの捲取り軸6の高さHの高さに応じてハツチコーミング4の高さH’も高くしなければならなかつた。その結果カバーパネルの捲取り時において、大きい収納スペースが必要であつた。更に公知のカバーパネルの形状が上記した通り断面コ字形状をしていた為、カバーパネルの閉状態における重心位置も高くなつていた。
本考案は、カバーパネルの断面形状に工夫をし、捲取り軸の上甲板からの高さを低くすることを可能とし、それによつてハツチコーミングの高さも低くすることを目的としてなしたものである。
(問題点を解決する為の手段)
この為に本考案では、夫々のカバーパネルを、その捲取り側及び捲出し側に張り出し縁を有し、これら張り出し縁間の中間部を膨出した形状に形成し、各隣接するカバーパネルの捲取り側及び捲出し側の張り出し縁をヒンジ連結してなることを特徴とする。
(実施例)
以下図面に示した好ましい実施例により本考案の詳細を説明する。
図中11、11……が本考案の特徴をなすカバーパネルで、夫々のパネルは、その捲出し側に張り出し縁12を、又捲取り側にも張り出し縁12’を有し、これら張り出し縁12、12’間の中間部18を膨出した形状にしてある。図面に示した実施例では、この膨出した中間部18の形状を断面台形形状としてあるが、この形状は、必ずしも断面台形形状に限られることなく、断面半円形形状、あるいは断面矩形形状であつてもよく、又これらカバーパネルは、その中間部18と張り出し縁12、12’とを一枚板によつて構成してもよいし、各別の板材を用いこれらを溶着等の手段により固着して一体化したものでもよい。そしてこれら各カバーパネルは、各隣接するカバーパネル11、11の捲取り側及び捲出し側の張り出し縁12、12’を突き合わせてヒンヂ連結13、13してある。そしてこの多数ヒンヂ連結したカバーパネルは、公知のカバーパネル同様、一端を上甲板17上に固設した架台15に支持した捲取り軸16に捲出るようにしてあり、同様にハツチコーミング14上に捲出すようにしてある。
本考案ハツチカバーの各パネル11、11は公知のパネル同様、傾斜した左右側壁板19、19を有し、その下端位置から水平板20を張り出させ、この水平板20に主ヒンヂ21を固設してある。主ヒンヂ21の捲取り軸側端は二又構造22にして、隣接する主ヒンヂ21の捲出し側端23を受入れ、ヒンヂピン24によつて連結してある。そして上記二又構造22からなる捲取り軸側端の基部には隣れる主ヒンヂの捲出し側端23の先端部と係合する係合部25を有する一方、主ヒンヂ21の捲出し側端近傍位置の両側面に隣れる主ヒンヂ21の二又構造22の先端と係合する受圧ブロツク26、26を固着してあり、これら2個所の係合によつてカバーパネルの荷重の支持点を分割し、支持強度を高めてある。
更に第6、7、9図に示した27がパネル間用水密ゴムパツキングで、押え板金28、28により固定してあり、第9図に示す通りその中間部を上方に膨らませてある。又第7図に示す29が水平板20の下面に固設したゴムパツキンで、ハツチコーミング14上に固設したタイトニングバー30と共働するようにしてある。そして第9図に示した31はゴムパツキング27の保護カバーで、カバーパネルに着脱可能に設けてあり、32はカバーパネルの補強部材である。加えて第5図に示した33が、捲取ドラム34とカバーパネルの主ヒンヂ21とを連結したアームで、上記主ヒンヂ21と同様の構造からなつている。
上記の通にの構成からなる本考案ハツチカバーは、第1図及び第2図に示した公知のハツチカバー同様、捲取り軸16にカバーパネル11、11……を捲取れば、ハツチが開放され、逆にカバーパネルを捲出せば、カバーパネルがハツチコーミング14上に送り出され、ハツチを閉じる。
而して本考案ハツチカバーが捲取り軸16に捲取られた状態では、各カバーパネル11、11が、その捲取り側及び捲出し側に張り出し縁12、12’を有し、これら張り出し縁間の中間部を膨出した形状に形成されているから、公知の断面コ字形状をしたカバーパネル1の折曲角部1’に相当する部分がなく、捲取り軸16からの距離を短くすることができた。即ち第2図と第4図を比較して明らかなように、公知のハツチカバーの捲取り軸6から最も距離の長い位置に位置する上記折曲角部1’に相当する部分が中間膨出部18と張り出し縁12、12’の構成により逆に除去された形態となつたから、捲取られたカバーパネルの捲取り軸16を中心とする径を短くすることができた。従つて捲取り軸16の上甲板17からの高さhを低くすることができた。その結果ハツチコーミング14の高さh'の高さも低くすることができただけではなく、カバーパネルの捲取り状態における格納スペースを小さくすることができた。而かもカバーパネルの形状を上記した通り中間部18の両縁に張り出し縁12、12’を形成したものとした結果、捲出し水平位置におけるカバーパネルの重心位置を公知のカバーパネルより低い位置とすることができた。従つてハツチコーミング及びカバーパネルの全体の重心位置ゆ低くすることができ、それだけ船体重心も低下させることが出来、安全性の向上に役立ち得た大きな利点を有する。
而も上記の通りハツチコーミングの高さを低くすることにより、その重量を軽減でき、それだけ船の積載量を増加することができる実用上の利点も有する。又コーミングを低くできたことにより、荷役用クレーンの運動量も少なくすることができ、時間的損失を減少し、荷役効率を上昇させることもできる効果も有する。
加えて、本考案ハツチカバーのカバーパネルの形状によれば、カバーパネルの捲出し状態で、カバーパネルの部分において重なるところがなく、捲出した状態で各部の点検を容易とし、塗装等の保守も捲き出し状態で容易に行い得る利点も有し、その効果多大なものがある。
図面の簡単な説明
第1図は公知の捲取り式ハツチカバーの捲出し状態を示す側面図、第2図は同じく捲取り状態を示す側面図、第3図は本考案ハツチカバーの好ましい実施例の捲出し状態を示す側面図、第4図は同じく捲取り状態を示す側面図、第5図は捲取りドラムとカバーパネル間のアーム部分を示す正面図、第6図はカバーパネル間の連結部分を示す一部平面図、第7図は第6図上Ⅶ-Ⅶ線に沿つて示す一部切断正面図、第8図は主ヒンヂの連結部分を示す正面図、第9図はカバーパネルの連結状態を示す断面図、第10図は主ヒンヂの連結状態を示す平面図、第11図は同じく主ヒンヂの連結状態を示す正面図で一部を切欠して示してある。
11……カバーパネル、12、12’……張り出し縁、13……ヒンヂ連結、18……中間部。
第6図
<省略>
第1図
<省略>
第3図
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第5図
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第2図
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第4図
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第8図
<省略>
第7図
<省略>
第9図
<省略>
第10図
<省略>
第11図
<省略>
物件目録
左記の説明および別紙図面によって特定されるハッチカバー
記
一、図面の説明
1、第1図は、捲取り式ハッチカバー9の斜面図である。
2、第2図は、第1図Ⅱ-Ⅱ線に沿う断面図である。
3、第3図は、第1図Ⅲ-Ⅲ線に沿う断面図である。
4、第4図は、第1図のハッチカバーを巻取軸に捲き上げた図である。
5、第5図(1)、(2)は、カバーパネルの斜視図である。
6、第6図は、ヒンヂアームの詳細図である。
7、第7図は、第5図A-A'線におけるカバーパネルの断面図である。
8、第8図は、捲き上げ時における部分拡大図である。
二、構造の説明
1、図中11がカバーを構成するカバーパネルで、各々のパネルは、舷側の両端部以外の部分において、その捲出し側に張り出し縁12'を、捲取り側に張り出し縁12をそれぞれ有し、これら張り出し縁12、12'間の中間部18を膨出した形状にしてあり、この膨出した中間部18の形状を断面矩形状にしてある。
2、各カバーパネル11は、各々隣接するカバーパネル11の捲出し側および捲取り側の張り出し縁12、12'に固着してある。
3、カバーパネル11は、一端を上甲板17上に固設した架台15に支持した捲取り軸16に捲き取るようにしてあり、同様にハッチコーミング14上に捲出すようにしてある。
4、各カバーパネル11は、第3図に示すように傾斜した左右側壁板19を有し、その下端から水平板20を張り出させ、この水平板20に垂直側板21を固着してある。
5、第2図に示した27がパネル間用水密ゴムパッキンで、押え板金28によって固定してあり、断面略W形をしている。また第3図に示す29が垂直側板21の下端内側に固設したゴムパッキンで、ハッチコーミング14上に固設したタイトニングバー30と共働するようにしてある。この他、図中31はゴムパッキン27の保護カバー、33がランニングホイール、34が締付装置である。
6、第5図(1)、(2)に示されるとおり、ヒンヂ連結はカバーパネル11の長手方向の中間部における適宜の位置においてなされている。
7、第6図に示されるとおり、捲き取り側ヒンヂアーム23'は二又構造とされ、該二又部に捲き出し側ヒンヂアーム23の先端部が嵌挿され、両者はヒンヂ連結により連結される。
8、第6図に示されるとおり、捲き取り側ヒンヂアーム23'と捲き出し側ヒンヂアーム23には相互の先端部を係合せしめる部材や構成が設けられておらず、これにより両者は制限なく回動しうるよう連結されている。
9、第5図(1)、(2)に示されるとおり、垂直側板21の捲き出し側端部に鉤状のガイドプレート50が突設され、右ガイドプレート50の先端部が、隣接する垂直側板21のブロックに係合し、これによって捲出し状態においてカバーパネル11が逆折れしないよう水平に保たれる。
捲き上げ時においては、右ガイドプレート50の先端部は、第8図に記載されているとおり、垂直側板21の捲き取り側端部に固設されたストッパー100の切欠部101に嵌合する。
10、前記のとおり、カバーパネル11の舷側端部は垂直側板21およびこれに突設されるガイドプレート50として形成される。
右垂直側板21およびガイドプレート50の存在により、第5図A-A'線におけるカバーパネル11の断面は、第7図に示されているとおり、先端部が鉤状のガイドプレートである略矩形形状となり、張り出し縁はみられない。
第4図、第8図に示されるとおり、右張り出し縁のない鉤状ガイドプレート付の略矩形形状が、捲き上げ時におけるカバーパネル11の側面形状をかたちづくっている。
11、垂直側板の高さはいずれも二〇〇ミリメートルでその長さは内側のものほど短くなっているが、捲き取り時において最も外側となる垂直側板の長さは二六五〇ミリメートルである。
三、作動態様の説明
締付装置34の締付作用を解除して、捲取り軸16を捲取り方向に回転すると、各カバーパネル11は各々連結されているから、ランニングホイール33がハッチコーミング14上を走行し、捲取り軸16に捲取られ格納され、ハッチコーミング14に囲まれたハッチが開放される。
逆にハッチを閉じるときには、捲取り軸16を捲出し側に回転すれば、各カバーパネル11が捲出されてハッチ上に送り出され、ハッチが閉じられる。
イ号図面
<省略>
イ号図面
<省略>
イ号図面
<省略>
第5図(1)
<省略>
第5図(2)
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第6図
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第7図
<省略>
第8図
<省略>
別紙説明図
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A~イ=110
A~ハ=150
A~ロ=265
A~C=100
C~イ=210
実用新案公報
<省略>
<省略>
<省略>